[三原順メモリアルホームページ]

編集の方によるコラム

「LOST AND FOUND」担当編集の方から、 編集作業中に当サイトにコラムをご寄稿いただいていました。 連載の予定が、結局都合により2回のみの掲載になりましたが、 ここにその記録を残しておきます。 なお、このコラムについての問い合わせは立野の方にということで、 出版社の方へは問い合わせないようにお願いします。

コラム第1回(2002年9月12日)

いよいよ三原順さんの新刊が発売になります!
そこで、その本をより楽しく読むために製作裏話や内容などを
発売までの間、ちょっとづつお話していきたいと思います。
今回は本のタイトルについて。
「LOST AND FOUND」とは直訳すると(なくした物が見つかる)と
いう様な意味ですが、今回の本には別の意味合いがあります。
『はみだしっ子』はもともと、イギリスはロンドンが舞台です。
そのイギリスの鉄道には、この「LOST AND FOUND」の看板を見る事が出来ます。
イギリスの鉄道では「忘れ物一時預かり所」をこう呼んでいるからです。
落とし物、なくした物、忘れた物がここに行けば見つかる……そんな願いから
付けたのがこのタイトルなんです。

さて、『はみだしっ子』の舞台をロンドンと三原さん自身がハッキリと
語った文章が、今まで発表された記憶は私にはありません。
そう言う私が何でロンドンと言い切ってしまうかは、
今回の本を見てもらえれば分かります。そんな本です。新しい発見が
いっぱい有ります。特に『はみだしっ子』に関しては多く掲載されます。

私自身は以前、三原さん本人に物語の舞台は何処だ?と聞いた事があります。
答えはこんなでした。
三原「日本以外の国の何処か、というより架空の町だと思ってください。」
私 「日本を舞台にする話は描かないんですか?」
三原「日本でもいいんでしょうけど、リアルになりすぎると雰囲気が出ないので…」

私 「でも見るからにはみだしっ子はイギリスっぽいですよね。
   ヨーロッパの何処かの国じゃダメなんですか?」
三原「国を特定すると、アレは違うコレは違うとクレームを言う人が
   いっぱい出てくるんです」
私 「漫画なんだから、気にしなくていいんじゃないですか…」

後から分かった事なのですが、三原さんは物凄い勉強家で資料を集めて
研究してから作品を作る人でした。だから、それが普通の人が知らない専門的な事で
も
勉強不足と言われると悔しかったんだと思います。
お兄さんは「妹はすごく頑固だったんですよ」と教えてくれました。

ちょっと長くなりましたので今回はこのへんでおしまいにします。
次回はこの本が作られた経緯を……。では。


コラム第2回(2002年9月21日)

 予約の申し込みもすこぶる良好でスタッフ一同喜んでいます。みなさん
ありがとうございます。さて、今回は「LOST AND FOUND」が制作される
までの経緯をお話します。

 「ビリーの森ジョディの樹」2巻の刊行直後より、単行本未収録作品集
の企画はありました。しかし、単行本未収録作は原稿が紛失してしまっ
ていた(当時はそう思われていた)ために企画成立自体が困難という事情が
あったわけです。そのためなかなか具体化するのが難しい状況でした。

 1998年8月の事です。遺族の方が所用で札幌にあった三原さんの自宅
兼仕事場に何日か滞在すると聞き、同行させてもらう事になりました。
 新刊発行の可能性を探る為に初期の作品などを見せて頂き、原稿や創作
ノートなどをチェックしました。そこで見つけたのが「もうひとつの時」
(はみだしっ子シリーズの未発表未完成原稿)です。
 これがきっかけとなり今回の企画が一気に進むことになりました。し
かし、原稿整理にはその後1年半もかかってしまい、しかもその他の作
業も困難を極め、三原さんが書き残したメモをテキスト化するだけで4か
月以上…。「もうひとつの時」の編集作業には2年の歳月を必要としまし
た。かれこれ今回の本は、5年近くかけて作られているのです。

 紛失していた原稿は三原さんがコピーを保管していたので、従来は不可能
だった修復をコンピュータを使用することで、今回みなさんにお見せでき
るように作業がされています。

 三原さんは過去に多数の投稿作品があり、今回の本にその作品が載ると
の噂が流れているようですが、そのような原稿は現存していません。現
存している投稿時代の作品は「マッドベィビィ」のみです。
 今回の本は現在、三原さんの遺族が保管している全ての原稿の中から単
行本に掲載されなかった作品や文章、未発表を含む貴重なイラストな
ど、お見せできるモノを全部掲載します。
 過去の単行本や雑誌をすでに全部見た人は、今回の本を見れば現存する
全ての三原作品を見た事になるのです。そういう本を作ります。

 とくに今回の本ではぜひ、みなさんに見ていただきイラストがあります。
それは三原さんが最後に描いた絵です。
 三原さんが亡くなったという連絡は会社で受けました。1箱に10本ほ
ど入って300円くらいのアイスキャンデーを食べていた時です。最初
はまったく実感がわかなくて、でも告げられた言葉を受け入れなければ
と思うとますます頭が混乱して……。
 ただダラダラと溶けていくアイスを、しばらく眺めていました。涙は出
ませんでした。後日、この三原さんのイラストを見た時は涙が出ました。
いろいろな想いが込み上げてきました。

 はてさてどんな絵かは、みなさん自身で見て確かめてください。また12
月のその日まで、何を描いたのか想像するのも楽しみのひとつかもしれ
ません。誰の顔が想い浮かびましたか? 人でしょうか、風景でしょう
か、物でしょうか、あのキャラクターでしょうか?



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Mai Tateno 立野 昧