三原順さんは、私の人格形成に最も大きな影響を与えた人の一人です。
『Sons』のラストで「あんたにはまだ思い出の中だけの人間になって欲しく ないんだ」というようなセリフがあったと思いますが、三原順さんが、思い出 の中だけの人間になってしまうなんて、何か、とっても淋しいです。
自分の中にどれほど三原順さんの作品が染み着いていたかというと…。
今年の正月にボブ・ディランの古い歌とかを今更ながら聴き、「ミスター・ タンブリンマン」の訳詞を読んでいて、「眠くはないけど 行くところがない」 というフレーズにどこかで聞き憶えがあるな…と感じ、記憶を辿ったところ 「はみだしっ子」中に出てきたことをはっきりそのシーンまで思い出し、確か めました(御自分で探してみたい方のために書きませんが、メイルをいただけ ればお教えします)。
ところで思ったのですが、これに限らず、「はみだしっ子シリーズ」には色々 他のものからの引用があります。いくつかは、『はみだしっ子語録』や『はみ だしっ子全コレクション』などで作者自身により明かされていますが、きっと 他にもたくさんあるのだと思います。精神科医 R.D. レインの著作からの引用 などは確か評論家の人も指摘していました。
もし、何か気づいていることがある方がいらっしゃれば、気のせいかも知れ ないというものでも構わないですから、是非お教え願いたいです。
もちろんそれを非難したい訳でなく、逆にそれを知り三原順さんの理解を深 めたいという気持ちからお願いしています。
他に私がそうではないかと思っていることを書いておきます。
「階段の向こうには…」は、画家ムンクのイメージが使われている気がします。 あるムンクの紹介記事によると彼の自伝の中には「ベッドは拷問台」という記述 があるそうです。そして何より、初期ムンクの「叫び」「思春期」などの作品 に付きまとう「自分より大きな影」が、やがて後期ムンクの作品の中では太陽 の光の中に後退していくことが、漫画の中に映しとられているような気がしま す。
「夢をごらん」は、パスカルのパンセの断章のいくつかを思い起こさせます。 ちょっと正確なところは忘れましたが、パンセには、「彼らは川の向うに住ん でいる」「彼らの君主と我々の君主が争っているだけで、彼らと我々が争わね ばならない…」といった断章があったと思います。